「これはこれは」
嘲弄するように、高槻が言った。
「今度は招待したわけでもないのに来てくれたわけか」
「これはどういうことよ」
顔色を青ざめさせて晴香が言う。
彼女の目の前では、兄の良祐が、床にできた血だまりの中に顔を突っ伏して、かすかにうめき声を上げている。手足を厳重に拘束されてまともに身動きもできないその姿は、まるで巨大な血まみれの芋虫さながらだった。
拷問――というより、リンチを受けて半殺しにされたと言ったほうが正しかった。
「こいつが、何をしたっていうの」
もう一度、晴香は訊いた。薄ら笑いを浮かべながら高槻が答える。
「こいつはな、戒律を破ったんだよ――信者との密通、肉親との面談、脱走の手引き。どれも重大な違反行為だ。それに、俺達研究員は信者を指導する立場にある。その立場にあるものが、率先して戒律を破ったのでは示しがつかないからな。当然、厳しい処分を受けてもらわなければならない」
「…処分って?」
声を震わせて晴香が尋ねる。その反応を楽しむように、高槻は少し間をおいてから答えた。
「――処分は処分だ。文字通り、な」
「そんな…っ!」
悲鳴に近い声で叫んで、晴香は絶句した。妹の声に反応したのか、良祐の体がぴくり、と動いた。苦しそうに喘ぎながら顔を上げ、息も絶え絶えに晴香に向かって言う。
「は…るかっ…逃げ…ろぉ…っ!」
良祐の顔はあちこちが無残に腫れ上がり、べっとりとどす黒く変色した血に塗れていた。それを見た晴香の目から、堪えようのない涙がこぼれ落ちた。
「どうしてよぉっ! どうして兄と妹が会ったらいけないのよぉっ!」
血を吐くような少女の叫びを、しかし高槻は音楽を愉しむような恍惚とした表情で聞いた。そして、更なる愉悦を求めて、部屋の隅の暗がりに向かって声をかける。
「やれ、B‐58。さっきの続きだ」
暗がりから、無表情な顔をした女性信者が歩み出てきた。良祐の前で足を止める。そして突然白目を剥いたかと思うと、食いしばった歯の間から不気味な声を絞り出し始めた。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
B‐58の髪がざわりと逆立った。部屋の空気が渦を巻いて動き、良祐に集中する。
「ふぐゎぁっ!」
くぐもった叫びを上げて、良祐は体を反り返らせた。鼻と口から新たな血が噴き出す。『不可視の力』で良祐を痛めつけているのだ。
真っ青になって体を凍りつかせる晴香に向かって、高槻が嗤いながら言った。
「お前は運がいい。Class‐Cの信者が『不可視の力』を直接見る機会なんて滅多にないことだからな。せいぜいじっくり見学しておけ」
「やめてっ! やめさせてよぉっ!」
晴香は高槻にすがり付いて懇願した。
「なんでもする、なんでもしますからっ! あなたの奴隷になりますからっ! ペニスだってなんだって舐めますからっ! れろれろして気持ちよくさせますからっ! だからお願い、良祐を助けてぇっ!」
もはやそこにはいつもの勝気そうな光を瞳にをたたえた少女の姿はなかった。ただ、残酷な主人に涙ながらに慈悲を請う、無力で憐れな奴隷がいるだけだった。
「B‐58、やめろ」
不意に、高槻が言った。良祐に集中していた力がふっと止む。
自分の願いが通じたのか―― 一縷の望みを抱いて、晴香は息を呑みながら高槻の顔を見上げた。だが、そこに浮かんでいたのはぞっとするような嗜虐的な笑みだった。
「―――いいだろう、お前の妹のたっての願いだ。巳間、お前にチャンスをやろう」
「どう…いうつもりだ…?」
顔を上げ、苦しい息の下から良祐が尋ねた。
「お前とは長い付き合いだからな。俺と勝負してお前が勝ったら、妹ともども見逃してやろうというんだ」
「勝負…だと…?」
「ああそうだ――」
高槻は歪んだ笑みをさらに深め――そして言った。
「この俺に、ちんこチャンバラで勝ったらなぁっ!」
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
怪我の痛みさえ忘れて、頓狂な声で良祐が叫んだ。
愕然として見るその目の前で、くくく、と笑いながら高槻がファスナーを下ろし、一物をずるりと引きずり出す。雁首の辺りを軽くしごくと、それはたちまちのうちにどくどくと脈打って膨張し、節くれだった威容を露わにしながら隆々と天を衝いた。
「な、なんて勃起力だ!」
良祐が息を呑む。高槻は嘲わらいながら言った。
「くくく…毎日トンカットアリとスッポンエキスとコブラの粉末、それにアルギニンと亜鉛サプリに反鼻エキスを服用しているからな――だがお前はどうだ? 不眠症で酒と睡眠薬の世話にならなければ眠ることもできないんだろう? そんな生活を続けていて、果たしてまともに勃たせることができるのかな?」
「くっ…卑怯だぞ高槻!」
男としてやりきれない敗北感に打ちのめされ、良祐は歯噛みしながら絶望的な言葉を吐いた。すると、おもむろに晴香が思いつめた表情で言った。
「大丈夫よ、良祐。私が手伝ってあげるから」
「手伝うって、ちょっ――――」
良祐の目が点になった。構わず、晴香は高槻に顔を向けて問う。
「いいでしょう!? せめてハンデくらいもらっても」
「いや、ちょっと待…」
「いいだろう――肉親の麗しい愛情とやらを俺に見せてもらおうじゃないか」
何か言おうとする良祐を遮って、高槻はにやにや笑いながら鷹揚に頷いた。それを聞いて、非常の決意に頬を薔薇色に上気させて小鼻を膨らませた晴香が、良祐の下半身に顔を埋めていく。
「ちょ、止め、晴香、それまずい、まずいって!」
「いいの…私にぜんぶ任せて」
言いながら、晴香は良祐のズボンのファスナーを下ろした。トランクスの前空きを指で掻き分けて、生っ白い色をした若干包茎気味のジュニアを引きずり出す。
「ちょっ、やっ、やめっ!」
「良祐…今から可愛い晴香が良祐のおちんちんをちゅぱちゅぱしてあげるからね。晴香のお口でいっぱい感じてね…」
兄妹の情愛にたっぷりと濡れた声でうわごとのように呟いてから、晴香は良祐のペニスを口に含んだ。
かぽっ。
「う…っ!」
良祐が体をびくんとふるわせた。その良祐の表情を妖しいうわ目遣いで確かめながら、晴香は舌と唇と口腔全体を使って亀頭を中心に良祐のペニスに刺激を与えていく。
れろれろちゅぱちゅぱ…
「くぅ…っ! 晴香ぁ…っ!」
最愛の妹に口で奉仕されて、たまらず良祐が呻き声を漏らす。あまり使われていないインポ気味(高槻談)の良祐の一物は、それでもむくむくと大きくなっていった。
「ふん、やればできるじゃないか―――B‐58、縄を切ってやれ」
高槻があごで指図すると、ぶつんと音を立てて良祐を拘束していたロープが切れた。晴香の体を押しのけて良祐がゆらりと立ち上がる。若干お粗末なものを勃起させたまま。
「勝負だ、高槻――」
幽鬼のような表情で、良祐は言った。
「いいだろう、かかってこい。ちなみに先に萎れた方が負けだ」
ちんこチャンバラのオフィシャルルールである。
「良祐がんばってぇ。縮んじゃいそうになったら晴香をオカズにしてぇ」
「おおっ、頼むぞっ!」
パンツ丸見えの開脚おすわりポーズで声援を送る晴香に、良祐は力強く、というか完全にやけくそで頷いた。そして、キッと鋭く高槻を睨みつける。ちんちん丸出しで。
「いっくぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「こいやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雄叫びを上げて、良祐は高槻に襲いかかった。それを高槻が迎え撃つ。良祐の粗品と、ねじくれ節くれだった高槻の異形が、がっきと組みあわされる。
「ふん、そんな貧弱なものでこの俺に勝てるつもりかぁっ!」
「貴様にはわかるまい! 俺の体に漲る、兄妹の愛が生み出す力が! 誰も愛してくれるもののいない貴様のような下衆にはなっ!」
「ほざけっ! この短小がぁっ!」
びゅんっ! びゅんっ! べちっ! べちっ!
目にも止まらぬ速さで二人の腰が動く都度、肉棒が宙を切り裂き、激しくぶつかり合う音が精錬の間に響く。竿と竿が弾き合い、雁首がぎりぎりと擦れ合う。
「くっ…!」
「どうしたぁっ、貴様の言う愛とはその程度かぁっ!」
「くそっ、負けられないんだっ!」
「良祐ぇっ、私のことを見てぇっ! エッチな晴香で元気になってぇっ!」
兄の劣勢に、妹の嬌声がとんだ。見ると、晴香はショーツの股間の布をずらして秘裂を露わにしていた。晴香の媚肉はピンク色に充血し、透明な粘液を滴らせていた。包皮の下から顔を覗かせた可憐な肉の芽には、中指の先があてがわれている。晴香は兄のために自分を慰めていたのだ。
妹の媚態に、兄の肉棒が再びにょきにょきと力を取り戻す。
「おおおおおおおっ!!」
ぎいん! 硬度を強めた良祐のおそまつくんが高槻のどすぐろい凶器を弾き返した。
「ふふん、やるじゃないか」
さっと飛び退いて一旦距離を取った高槻は、しかし嘲わらうような笑みを浮かべていた。
「だがそこまでだな。いくら貴様に妹がついていようとも、しょせん俺と貴様とではサイズも硬度も持久力も大人と子供なんだよ! 貴様に勝ち目など万に一つも無いっ!」
「そんなことはないっ! そんなことはっ!」
勝ち誇る高槻を、良祐はぎりぎりと睨みつけた。最愛の妹の前で、男としてもっとも屈辱的な形で敗北する――それだけは絶対にあってはならないことだった。
「ならばそれを証明して見せろぉっ!」
叫びざまに、高槻は良祐に打ちかかった。唸りを上げて襲いかかる凶悪フランクフルトを、かろうじて良祐のベビーウインナーが受け止めたが、そのままじりじりと押し込まれていく。
「そうら、沈んでしまえぇぇぇっ!」
そして壁際まで追い詰められた時、良祐の双眸が、かっと見開かれた。
「俺は――負けんっ!」
「何ぃっ!? 貴様っ!」
良祐は高槻の思ってもみなかった行動に出た。雁首の裏側、包皮が亀頭に繋がっている部分の根元の、もっとも敏感な部分同士を、猛然とこすりあわせ始めたのだ。
「や、やめろっ! そんなことをすれば貴様もイってしまうぞっ!」
「だが貴様もイくんだろっ!」
びくびくと尾てい骨を震わせる悦びの電流に小鼻を膨らませて良祐は叫び返した。そして、さらに腰を動かす速度をはやめていく。
「あくっ…!」
「ふんっ…!」
二人の鼻から棒のような息が洩れる。
「良祐…!」
晴香が息を呑んで見守る。
「あああああああああああ」
「ややややややややややや」
二人の腰が、がくがくと痙攣し始めた。そして―――
「う……ッッッッ!!!」
「ふん……ッッッッ!!!」
どぴゅっ!
ふた筋の白い迸りが宙を裂いて翔んだ。良祐と、そして高槻ががくりとその場に膝をついて崩れ落ちる。二人は同時に達してしまったのだ。
天を衝いてそそり立っていた高槻の異形と良祐の粗品は、どくどくと脈打ちながら少しずつうな垂れていった。勝負は終わったのだ。
二人の男はしばらくの間、顔を俯けて息を荒くしていたが、やがて視線を上げた。互いに見つめあう。
(中々やるじゃないか)
(お前こそ)
そこに言葉はいらなかった。何の遺恨もない、ただ、相手の健闘を称えあう瞳だけがあった。
そして二人の胸もとにはそれぞれ、あたかも勇者を飾る勲章のように、互いの放った熱い生命の迸りが、べっとりとへばりついていた。
(やっぱり、男同士の間に女の私が入る隙間なんてないのね…)
痛みにも似た微かな悲哀を覚えながら、晴香は胸の中でそっと二人の男に祝福を送った。
めでたしめでたし。
<了>